カテゴリー「ラストテレパシー -The Last Telepathy-」の記事

2009年11月 8日 (日)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #27

 一瞬、言葉が詰まった。見抜かれてる…!
 ラスタスは、身体中の血の気が一気に引いていくのを感じた。しかし必死に平静を装う。
「う、うん…!そう!会ったの、女の子に」
 セイファートは表情ひとつ変えず、一呼吸置いて、
「やはりそうですか…」
「でも、どうしてそんなことが判ったの」
「夢を、見ました」
「夢?」
「はい。あなたが、ふたりの少女と会う夢でした」
「……」
「そしてその少女は、赤と青のイメージが強烈でしたが…」
「そうそう! セイファートの言うとおり、青い髪と、赤い髪の女の子だった…」
 ラスタスは驚いた。全てはフライング・カフェでセイファートが言った通りだ。ここまで正確に予知ができるマスターは、我が軍には他にいない。
 さすが、総合レーティング・予知能力レーティング共に”A”のセイファートだ。
 素晴らしい。そして、怖ろしい―
 ラスタスは、彼に対して畏怖のようなものを感じ始めていた。

 ふと、ラスタスの中である考えが浮かんだ。
 セイファートなら、ミランダのことが判るかもしれない…!

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #27"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年10月13日 (火)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #26

  くるりとゼアに背を向けるラスタス。慌てて、
「待て、待て…、ラスタス!」
 ラウンジを出ようとするラスタスに、ゼアは後ろから呼び止める。
「ミランダは…」
 その言葉に反応し、ぴたりと立ち止まる。
「……」
 ラスタスの肩は、震えているようにも見えた。
  ふたりの間がしんと静まりかえる。ラウンジ全体の時が止まってしまったかのように。
「ラスタス、その…、ミランダには、会ったのか?」 
「……」
 ゼアは、ミランダと直接の面識はない。しかし、ラスタスにとって大切な友人であることは知っていた。
 ラスタスは向き直ると、再びゼアの隣に座る。両肘をカウンターの上に付け、両手で顔を覆い、そして…、
 …力なく首を振った。


「ラスタス…」
 その仕草がいつになくいじらしく見えて、ゼアは、ラスタスの背中に腕を回そうと、片腕を伸ばしかけた。

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #26"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年9月14日 (月)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #25

 赤と青の双子は、しばらくの間、ラスタスの去った方角を見つめていた。

 真っ更だった青の空の一部が濁り、ゆっくりと白い筋の雲が流れ始めたころ、
 押し黙っていたふたりは、ようやく会話を始めた。

 最初に切り出したのはシアンだった。
「ねえ、マゼンタ」
「なあに?」
「また、ここに来るかな、ラスタス」
「うん、また来るよ、きっと」
 きっぱりと言い切るマゼンタ。まるで未来を見てきたかのように。
「じゃあマゼンタ、次にいつ来るかわかる?」
 マゼンタはしばらく目を閉じる。やがてぱちり、と目を開け、
「遅くても…、七日後。うん、七日後」
「一週間後か、もうすぐだね」


白い雲は更に伸び、シーツのように天を覆い始めた。

「ねえマゼンタ、今度ラスタスが来たら、あそこへ連れていかない?」
「いいね、行こう」
「久しぶりにね!」
「うん、楽しみだね!」

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #25"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年8月24日 (月)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #24

 ラスタスは、聖堂で祈りを捧げる。
 祭壇の前面の壁には、高い位置に円い窓が取られていた。そこから差し込むやわらかな光が、祈る者を優しく包みこむ。
 正円は、この世界において最も聖なる形であり、この教会でも尖塔をはじめ、あちこちに円を象ったオブジェが掲げられているのだ。

 ラスタスは祈る。膝をつき、両手を合わせ、頭(こうべ)を垂れて、時間が止まったかのように祈り続ける。
―どうか、どうかミランダが無事でありますように―!

 聖堂を出ると、強烈に眩しい日差しが飛び込んできた。
 森の青々とした緑も、庭園の色とりどりの花の色も、目に鮮やかで。しかし、ラスタスの心は晴れなかった。
 ふと見上げると、天には真っさらな青が果てしなく広がっている。哀しすぎるくらいに。
 べったりと塗り込めたような、あるいは色紙を貼り付けたような、混じり気のない、青。
 それがとても寂しかった。

 結局、教会でミランダについての手がかりを得ることはできなかった。

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #24"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年8月 3日 (月)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #23

「ラスタス?」
「……ミランダ…が…」
「何かあったの? 話してごらんなさい」
「シスター」
 ラスタスは、涙で濡れた顔をすっと上げ、シスターを見つめる。
「ミランダは、今どこに…」
「えっ」
「ミランダを…、知りませんか!」
 必死にシスターに詰め寄る。思わず声が荒くなる。
「ミランダ、ミランダがいないの!」
「ラスタス!」

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #23"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年7月19日 (日)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #22

「でも、それが本当だとしたら…、どうしてわざわざ違う名前を名乗るのかしら」
「………」
 ラスタスは押し黙る。と同時に、先ほどの自分の発言をひどく悔いた。
 シアンとマゼンタが偽名だという情報は、軍の機密に抵触しかねない。それを一般人であるシスターに漏らしたのは失敗だった。
 いやそれ以上に、シスターが双子に対して疑念を抱きかねない。それは双子を慕っているシスターの心を傷つけてしまうことになる。
―迂闊だった!
 三分だけでいい、時間を巻き戻すことができたら―!

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #22"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年7月 5日 (日)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #21

 森を抜け、見えてきた白亜の教会。その手前の小さな庭園に、人影を見つけた。
「…?」
 そのときふと、ラスタスの中に不思議な感覚が沸き上がってきた。
 誰か来ている。それも…?
 胸騒ぎのような、それでいて懐かしいような、この感じ―
 妙な何かを胸に抱えたまま、教会の敷地内へと入った。

 庭園の中では、二人の少女が庭の手入れをしていた。
 青い髪の少女は、如雨露で水遣りをしており、赤い髪の少女は、箒で庭を掃いていた。
 しかし、ラスタスの姿を認めると、ふと手を止め、その場に立ちすくんだ。

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #21"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月 2日 (火)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #20

「えっ……」
 その言葉を聞いて、シスターの胸が痛んだ。

 この子らは、記憶を失くしている。

 人は、過去にとても辛い出来事があったとき、その記憶を脳の奥底へ仕舞ってしまうことがあるという。二度と思い出してしまわないように。
 もしくは何らかの事故かなにかで、記憶自体が抜け落ちてしまったのかもしれない。
 あどけなさを残したふたりの少女は、見た目からは想像も付かない過去を背負っている…。
 いずれにせよ、ここで彼女らの出自を詮索してはならない、シスターはそう判断した。

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #20"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年5月11日 (月)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #19

 ただ事ではない、そう直感したシスターは、しゃがむと少女の両肩に手を置き、
「大丈夫ですよ、ここは安全です。どうぞ中へ…」
「待ってください、もうひとり…」
 少女は何度も後ろを振り向き、しきりに気にしている。
「もう一人…もうひとり!」
「落ち着いて、大丈夫、大丈夫だから」
 シスターがなだめたそのとき、敷地内にもうひとりの少女が入ってきた。赤色の髪を振り乱して、まっしぐらに走ってくる。
「あ、こっちこっち!」
 青い髪の少女は手招きをすると、赤い髪の少女もシスターの元へ一気に走り込む。途中、足がもつれてつまずきそうになる。

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #19"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年4月26日 (日)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #18

  気丈に返すラスタス。だが、彼女が深い悲しみを押し殺していることをバルジは見逃さなかった。
「私からは以上だ。辛いだろうが…」
「いえ…」
 ラスタスはバルジに目を合わせることもなく、深々と敬礼する。
「失礼します」
 そのまま足早に室を後にした。

 司令棟を出ると、空は墨を流したようにどんよりとしていた。
 軍帽を目深に被り、俯きながら早足で歩く。次第に足が速まり、いつの間にか駆け足になっていた。誰にも見られたくない、誰にも悟られたくない―
 逃げるように宿舎へ走り、自室に飛び込むなりドアを後ろ手に閉め、そのままずるずると床に座り込んだ。
 とたんに、溜まっていた涙が一気に溢れてきた。
「うっ……」
 堰を切ったように溢れる涙が、頬を濡らしていく。

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #18"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年4月14日 (火)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #17

 相変わらず元帥室へ入るのは緊張するが、バルジの泰然自若とした姿を見ると、少しだけ心が落ち着いた。一見豪放にも見えて、実は信頼できる上官。それがマスター達を束ねる元帥・バルジである。

「ラスタス、”夢”の話はセイファートから聞かせてもらった」
「はい」
「一応参考にはさせてもらう。君の夢もセイファートと似ているところがあるからな」
「ありがとうございます」
 ラスタスの胸が熱くなった。これは信頼されている証でもある。
「うむ…、ところでラスタス」
「はい」
 バルジの表情がわずかに変わったのを、ラスタスは見逃さなかった。

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #17"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年3月30日 (月)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #16

「…」
「なにしてたの、セイファートと」
 勘ぐるような言葉に、ついかっとなる。
「なによ、わざわざ後つけて見てたの?」
「見てたんじゃなくて、見えてたの!」
 ラスタスは今すぐにでも逃げ出したい気持ちに駆られた。間違いなく、セイファートと一緒にいたところを見られている。しかし誤解だけは避けたい。
「別に…、セイファートとラウンジで話してて…」
 ”空”へ行った― とは言えなかった。

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #16"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年3月15日 (日)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #15

  ラウンジは静かだった。
 人は既におらず、所々ダウンライトの淡い光が寂しげに灯っている。大きく取られた窓の外は夜の帳(とばり)が下り、かすかに星さえも臨むことができた。
「あ、もう閉まってる」
 ラスタスは目を丸くした。つい先ほどまで居た”フライング・カフェ”は、あんなにも青空が広がっていたのに。
「帰りましょう。じきに消灯時間です」
「ん」
 セイファートに促され、ラスタスはラウンジを後にした。

 宿舎までの道のりを、並んでゆっくりと歩く。
「セイファート、今日はありがとう」
「いいえ」
「あなたと私の夢、似たようで違っていたね…」
「そうでもないですよ」
「え」
「わたしの予知能力も百パーセント完璧というわけではない。もしかしたら、あなたの方が的中しているかもしれません」
「まさか!」
「いいえ」
 セイファートはどこともなく空中に目を泳がせ、独り言のように呟く。
「―実際は、そのときになってみないと判らない。予知が正確だったかどうか実際に諮ることができるのは、何もかもが過ぎ去った後からです」
「……」
「真実というものは、過去と現在にのみ存在するのです。未来にはまず在り得ない。そんなものですよ」

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #15"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年2月27日 (金)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #14

「ほんと?」
 ラスタスは思わず身を乗り出した。と同時に、不思議と期待めいた何かが、ラスタスの中で踊った。
「ただ、あなたが見たのとは少し違います」
「…というと?」
「あなたの夢の中の少女は、ひとりでした。しかし…」
「ただ?」
「わたしが見たのは、ふたりでした」

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #14"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年2月 9日 (月)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #13

「失礼」
 ラウンジにて待つラスタスの向かいに、ひとりの青年が座った。ラスタスは顔を上げる。
「お久しぶり」
「こちらこそ。特A、おめでとう」
「ありがとう」
 ラスタスは軽く会釈し、
「セイファートの作戦のおかげです」

 ラスタスは、セイファートの前髪から覗く目を見つめる。
 一見穏やかにも見えて、何を考えているのかわからないような視線。共に歩んできた同胞のひとりではあるが、セイファートに対して、目に見えない畏れのようなものを感じて、ラスタスは無意識のうちに警戒してしまう。
 しかし今回ばかりは、そうも言っていられない。

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #13"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年12月31日 (水)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #12

「…少女の夢?」
「はい」
「それはまた。一体何を意味するのかね」
「今の段階ではなんとも…。でも、わたしの夢にしては鮮明なほうかと」
「それは、かなり”予知”に近いと」
「そうかもしれません」
「ふむ…」
 バルジは目を閉じ、しばらく考え込んでいたが、
「詳しく聞かせてくれないか、セイファート」
「はい。その前に」
 セイファートはバルジの卓に近づき、声のトーンを落とし、囁くように、
「失礼ですが…、お人払いを願えますか」

続きを読む " ラストテレパシー -The Last Telepathy- #12"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年12月 6日 (土)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #11

 それは、自然な目覚めだった。
 まぶたを開けると、ぼうっとしたダウンライトの薄明かり。すぐ目の前には天井。妙なこの圧迫感。すぐに察した。
(ああ…、測定していたんだっけ)

「お疲れ様でした。今からカプセル開けますね」
 明るいメレットの声がした。しばらくして天井がゆっくりと開き、辺りが一気に明るくなった。思わず目を細める。半身を起こし、腕を伸ばして伸びをし、身体が目覚めるのを待つ。
「うーん…どのくらい寝てた?」
「はい、二時間と七分です」
「そんなに…!?」
「疲れていたんじゃないですか?」
「そうかも…。あっ!」
 ラスタスは、検査の目的を思い出し、
「ごめん、夢…、見なかった」
「あ、それは大丈夫です、先輩。もうすぐ結果が出ますので、こちらでお待ちください」
 メレットは笑顔で、ラスタスをカウンセリングルームへ促した。

 コンピュータのモニタを見ながら、メレットは告げる。
「ラスタス先輩の結果ですが―」

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #11"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年10月12日 (日)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #10

 施設内の宿舎からほど近い場所に、その医療棟はあった。荘厳な白亜が青空に映えている。
 ここは、マスターたちの体調管理はもちろん、基本的な身体能力のみならず、マスターとしてのいわゆる”超能力”を測定する、軍にとっては重要な機関である。個々のレーティングもここで決定されるのだ。

(ああ、久しぶり…)
 久しぶりに足を踏み入れたラスタス。口の中が乾いているのを感じる。嫌が上にも緊張してしまう。
 ガラス張りの重いドアを開けると、やや小柄な少女が出迎えてくれた。

「ラスタス先輩、特Aおめでとうございます!」

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #10"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年9月 5日 (金)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #09

「!?」
 女の子の声。それも初めて聞く声…。
「こんばんは」
 これは夢か、それとも幻聴か。息を詰めて警戒する。
 しかしその声に邪気は無かった。鈴の音の鳴るような可愛らしい声。むしろ耳に心地いい。
「こんばんは…!」
 おずおずと目を開けると、ベッドの傍に少女が立っていた。
「…!」

 突然の闖入者に身体が強ばる。
 何故、夜分に女の子が? それも自分の部屋に、いつの間に…!
 その姿をよく見ようと、恐る恐る体を起こす。手を伸ばそうとしたが、腕が金縛りにあったかのように動かない。
 警戒するラスタスとは裏腹に、幼気(いたいけ)さが残るその少女は、丸い大きな目をくるくると動かして、朗らかな笑顔を投げかけている。
「はじめまして」
 何か言葉を返そうとしたが、声が出ない。口の中が乾く。
 必死に喉を絞り出し、やっと口をついて出たのは、自分でも聞き取れないような、か細い声。

「………誰……」

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #09"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年8月19日 (火)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #08

 士官学校より苦楽を共にし、同じ釜の飯を食べてきた同胞である、ラスタス。
 彼女を誇りに思うと共に、ゼアは、相反する寂しさを覚えた。
 自分が置いて行かれるような気がして。
 ラスタスが、より遠い存在になっていくような気がして。
 
 
 そのとき、背後から明るい声がした。
「お久しぶりです、先輩!」
 びくりとして振り向くと、明るい笑顔がそこにあった。

「メシエ!」
 ゼアの顔が一気にほころんだ。
「久しぶりだな。調査は大丈夫だったか」
「はい、隣国も軍に動きはありません。ラスタス先輩のおかげです」

 メシエというその青年-というにはまだ若いほうだが-もまた、同じマスターのひとりだった。
 褐色の短い髪が、童顔を一層際立たせている。彼の胸に光る徽章は、赤銅色に輝いていた。
「先輩、今日はお一人ですか」
「さっきまでラスタスがいたんだけど、帰っちゃったからな…。メシエ、付き合うか?」
「喜んで!」
「酒はダメだぞ、おまえまだ未成年だからな」
「わかってます」


「ラスタス先輩が特Aもらったって本当ですか?」
「知ってたのか」
「周りでもう噂になってますよ。バッジの色は? 金以上に何かあるんですか」
「ええと、何色かな…、透明…かな」
「透明?」
「ダイヤモンドだ」
「すごい…!」
「そうだな、すごいな…」
 ゼアはやや上の空で、何杯目かの酒を呷る。
「確かに、その功績はあると思いますよ! 僕が隣国の偵察へ行っても、あっちのマスターたちは目立った様子がありませんでした。テレパシーも弱まっていたみたいですし」
「そうか」
「はい、今は平和です」
「今は…な」


 一方、自室へ戻ったラスタスは、胸の徽章を外すと、テーブルの上にそっと置いた。
 早速ぽんちゃんが傍に駆け寄り、丸い目を更に丸く、大きく見開いてじっと見つめる。初めて見る透明な光に吸い込まれるかのように。

200808ponchan
「ぽんちゃん、今日はいいことがあったの。綺麗でしょ? ダイヤモンドだって!」
「ピ!」
 ダウンライトの下で、より一層輝きを増すそれは、ラスタスの昇進を祝福しているかのようだった。


 ラスタスは、ふと先刻のゼアの反応を思い出した。
「ねえ、ぽんちゃん?」
「ピ?」
「…男の人って、やっぱり出世とか気にするものなのかな?」
 ぽんちゃんは、首をかしげるような仕草をした。首らしい首はないのに。そんな仕草が可愛らしく、いじらしくもあった。

 

 
 その数時間後。
 眠るラスタスの意識の中、彼方で凛とした声が響いた。

「……こんにちは……。こんにちは…!」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年7月11日 (金)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #07

「辞令だ。受け取りたまえ」

 バルジが拳を握り、ラスタスの目の前に差し出す。
 しばらくして指の隙間から光が漏れた。ゆっくりとその手を開くと、小さな光の玉がふわりと浮き上がり、ラスタスの胸に飾られた金の徽章(きしょう)めがけて飛び込んできた。徽章は閃光を放ち、一瞬にしてまばゆい透明へと色を変えた。
「…!」
 目を丸くして胸元を見つめるラスタスに、バルジは微笑む。
「驚いたか?」
「元帥、これは…」

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #07"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年5月28日 (水)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #06

 祈りを捧げるラスタスを、シスターは静かに見守る。
 幼い頃からを知るシスターにとって、ラスタスは自分の子どものような存在だった。
 いつまでも、彼女がここに来られますように…シスター自身も祈りを捧げる。

「ありがとうございました」
 シスターに頭を下げ、去ろうとしたラスタスを呼び止める。
「ラスタス…」
「はい?」
「…次は、いつ来られますか」
 ラスタスは笑顔で答える。
「また近いうちに、必ず…」
 


 清々しい気持ちで施設へと戻り、宿舎へ入ろうとしたラスタスの目の前に、突如ゼアが現れた。
「ラスタス、ラスタス!待って!」
「ゼア、どうしたの」
 急いで走ってきたらしい。荒い息で、
「今すぐ司令棟へ行け。バルジ元帥がお呼びだ」
「元帥が…!」

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #06"

| | コメント (0)

2008年3月11日 (火)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #05

 翌日。この日は休暇である。
 ラスタスはいつもより早く起き、ぽんちゃんと一緒に朝食を摂り、シャワーで身体を清めると、宿舎を後にした。
 
 守衛より外出許可を得たラスタスは、施設を出て歩き出した。
 広大な大地の中、ゆっくりと歩を進める。マスターとしての”力”を使うことなく、自らの足で踏みしめる土の感触。心地いい。
 昨日とはうって変わって、空は一点の曇りもなく晴れ渡っている。降り積もっていた雪は既に溶けて、あちこちに青い草が芽吹いていた。もう春も近い。
 途中、鬱蒼と茂る森の中をしばらく歩く。十数分歩いたところで、急に視界が開けた。
 青い芝生で固められた広場。その中心に、ぽつんと白い建物が佇んでいた。

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #05"

| | コメント (0)

2008年2月21日 (木)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #04

 ゼアもまたラスタス同様、優秀なマスターのひとりだった。
ラスタスとは士官学校時代からの同期である。共に学んできた二人は、互いの力を認め合い、切磋琢磨する戦友である。
 前線に立つようになり、以前より顔を合わせることはなくなっても、たまに会ったときは励ましあい、忌憚なく意見を交わし合う仲でもあった。

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #04"

| | コメント (0)

2008年2月 3日 (日)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #03

 報告を済ませたラスタスは、施設内の宿舎に戻った。

 真っ暗で誰も居ない、静かで寂しい部屋。照明を点けると、部屋の奥からその静けさを打ち払うかのように甲高い鳴き声が聞こえてきた。動物のようだ。
 小さなそれは飛び跳ねながら、嬉々としてラスタスに近づいてきた。 
「ピ!」
「ただいま、ぽんちゃん」

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #03"

| | コメント (0)

2007年12月27日 (木)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #02

 数十キロにも及ぶ荒野を自らの足のみで走りぬけること小一時間。彼女は、とある巨大な施設にたどり着いた。
 白いその建物は、吹雪の中に溶け込むように聳え立っている。

 直線のみで構成された、無機的とも言えるその建造物に、彼女は吸い込まれるように消えていった。

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #02"

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2007年12月10日 (月)

ラストテレパシー -The Last Telepathy- #01

 墨を流したような暗い空の下、雪が降りしきる荒涼とした大地を、一人の女性が走っていた。
 長く黒い髪を乱し、息を切らしながら。

 ふと、彼女の姿が掻き消えた。雪の中に溶け込むように。

 

続きを読む "ラストテレパシー -The Last Telepathy- #01"

| | コメント (0)